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水戸地方裁判所 平成6年(行ウ)19号 判決

原告

株式会社朋栄レクリェーションセンター

右代表者代表取締役

八代仁夫

右訴訟代理人弁護士

麻生利勝

田中保彦

被告

日立市長

飯山利雄

右訴訟代理人弁護士

會澤連伸

右訴訟復代理人弁護士

會澤克男

理由

一  〔証拠略〕によれば、茨城県において事業主がゴルフ場開発事業を行おうとする場合、取扱方針、基本要綱及び指導要綱により、国土利用計画法、都市計画法、茨城県宅地開発事業の適正化に関する条例等の関係法令の定める許可、設計確認の申請あるいは届出等の前に、開発区域を管轄する市町村長と内協議してその選定を受けたうえ(取扱方針第5、第6)、知事と事前協議して設計承認を得なければならず(基本要綱第5)、知事は右事前協議の申出書の提出があったときは市町村長の意見を聴くものとされ(基本要綱第6)、右の設計承認申請書の提出があったときは市町村長の意見を聴くことができるとされていること(指導要綱第10)が認められる。原告が、本件開発計画に伴い、指導要綱に基づき、被告に対し、茨城県知事宛の設計承認申請書を提出し、被告が、本件開発計画に対する同意意見を付して右申請書を茨城県に進達したこと、被告が、平成五年三月五日、右同意意見を茨城県に対して撤回したことは、当事者に争いがない。

二  ところで、右取扱方針、基本要綱及び指導要綱は、その立法目的及び規定の内容等に照らせば、事業主に対し、関連法令等の定める許可申請等をする前に、市町村長と内協議してその選定を受けたうえ知事と事前協議してその承認を得べきことを求めることにより、その協議の過程で総合的かつ計画的な県土の利用のための調整を図ることを目的とするものであって、いずれも、事業主に対し、任意の協力を期待する行政指導の指針を定めたものと解するのが相当である。

したがって、事業主は、右取扱方針、基本要綱及び指導要綱の定めによって市町村長との内協議を経るべきこと、市町村長の選定を受けるべきこと、知事との事前協議を経るべきこと、知事の承認を受けるべきこと等を法的義務として課されるものではないのであり、知事宛の設計承認申請にあたり市町村長の同意が得られなかったからといって、そのこと自体によって法的に工事に着手することができなくなるということにはならない。そして、事業主としては、右同意が得られたとしても設計承認を得るための途が開かれるだけであり、設計承認を得られるとは限らない。

そうしてみると、取扱方針、基本要綱及び指導要綱の定める行政指導の指針に従った市町村長による同意若しくは不同意意見の表明は、何ら事業主にとって法的な利益を付与しあるいは不利益を課すものではないと解するのが相当であるから、被告の本件同意意見撤回行為もまた、原告に対し法的不利益を及ぼすものではないといわざるをえず、右行為を無効確認訴訟の対象となる処分に該当するということはできない。

三  原告は、被告の行為が、事業主の知事に対する設計承認をなしえた法律上の地位ないし権利、若しくは設計承認等を受けられるという期待権を侵害するものであると主張するが、市町村長の不同意意見の表明それ自体が開発行為を禁止又は制限する効果を持つものでないことは前記のとおりであるから、右結果が原告の権利ないし法律上の地位等を侵害するものであるとはいえず、結局、被告の本件同意意見撤回行為が、国民の権利ないし法律上の地位に直接影響を及ぼすものであると解することはできない。

四  よって、本件訴えは不適法であるから、その余の点を判断するまでもなくこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 來本笑子 裁判官 松本光一郎 福井健太)

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